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1966年型 タイプ1コンバーチブルがある父子の夢をのせてドイツに帰る No.4

2021/01/28

トピックス

元吉さんがタイプ1コンバーチブルを購入したのは、廣野さんが小学校2年生の時だった。その時のことは、よく憶えているという。
「子供ごころにも、決してカッコいいクルマとは思えませんでしたね。虫のように見えました」
廣野さんは、当時を思い出して笑った。
「エンジンはうるさいし、快適じゃありません。休みの日に、家族で遊園地などに連れて行ってくれるんですけれども、いつも午後早めに帰ろうとするんですよ。“ライトが暗いから”とか、“雨が降ってこないうちに”とかが理由でした」

今となっては、どれも笑い話だ。小学生だった廣野さんにとってタイプ1コンバーチブルは理解しにくい存在だったが、中学生になると元吉さんも折に触れて説明してくれるようになった。
空冷の水平対向エンジンをリアに積むことの合理性や、その設計は戦中からフェルディナント・ポルシェ博士によって進められていたことなどを元吉さんは廣野さんに伝えていった。
「父は、日常的なメインテナンスの他にもキャブレターの分解掃除やスパークプラグの点検清掃、ポイント調整など自分でできることはすべて自分で行っていましたから、その過程で知り得た設計上の工夫や、ピストンやクランクなど摩擦部分の優秀性などを噛み砕いて説明してくれました」
タイプ1コンバーチブルは、元吉さんにとって家業の一端を廣野さんに教える格好の“教材”でもあったのだろう。

 周到な元吉さんは、実はタイプ1をもう1台購入していた。コンバーチブルでない、スチールルーフのタイプ1を雨天用に購入し、クーラーを付けて日常の移動に使っていた。2年間乗った後、弟に譲った。弟は、その後、20年30万km以上にわたって乗り続けた。
工場を案内してもらった。現在、廣野鐵工所は従業員133名を数え、平均年齢も35歳以下と若い。最高齢の社員は78歳だが、昨年までは85歳の人が正社員として勤めていた。
「親子や兄弟、夫婦で勤めてくれている従業員もいます」
つまり、離職率が低く、それだけ勤めやすい職場であることの証だ。
「顧客満足度よりも“社員満足度”の方が大事なのだと考えています」
社員満足度ですか?
「はい。ウチの会社では、ひとりで全部の仕事ができるようになってもらうように人材育成を行っています。工作機械を扱えて、メインテナンスもできて、生産管理や部品の発注などもできるようなエンジニアになってもらいます。決して、機械のボタンを押すだけの“オペレーター”や“ロボット”にはしません。分業やアウトソーシングなどとは正反対の考え方です」

 結果をすぐに求めたがる最近の風潮とも異なってくるのではないか?
「若い人に経験者が仕事を教え続けると、若い人は脱皮するんです。自分ができなかったことができるようになって、それが自信につながる。自信は、達成感や充実感をもたらします。自分の居場所もできて、ほめてもらえます。仕事が面白くなり、自然と次の目標も立てられるようになります」
人材育成は一朝一夕にはできないが、いくら生産設備が高度なものに進化しても、最終的にそれを使って生産を行えるかどうかは人間に掛かってくる。
「父も言っていました。“機械は、あくまでも道具である。製品は、人間が造る。人間がしっかりとしていないと良い製品は造れない”と」
つまり、それが廣野さんが“社員満足度”を大切にしようとする理由だ。それは元吉さんの教えでもあるし、廣野さん自身の信念でもある。
「ドイツで同業の工場を視察させてもらったことがありますが、週休3日で生産性がとても高いと聞いて驚くと同時に大いに納得させられました。ドイツこそ、ひと足先に社員満足度の高さを実現していると思いました」
元吉さんも廣野さんも、たびたびドイツを旅している。廣野さんは1976年に元吉さんと一緒に初めて出掛け、各地を訪れたが、中でもミュンヘンのドイツ博物館には3日間通った。
「父は若い頃からドイツへの関心が高く、マイスター制度などについても調べていました。スパナからビートルまで、終生、大きな信頼感を抱き続けていました」
廣野さんも、会社を経営する上でドイツから受けた影響は大きいという。
「モノの背景には必ず人がいて、その人の持つ技能は熟練した技術者から若者へと継承されていっているところが素晴らしい」

NO.5へ続く